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Tunnel of Love

Tunnel Of Love


小さないすに座った
太った男が
視線を君へと走らせながら
オレの手から金を取り
チケットをよこし
微笑んで
「幸運を」と囁く
天使よ寄り添ってくれ
小さな鳩よ寄り添ってくれ
オレ達は愛のトンネルへと
入っていくのさ

君のブラウスの
柔らかいシルクを感じるよ
オレ達の小さなお化け屋敷に
柔らかいスリルを感じるよ
明かりが消えて
オレ達3人だけになった
君とオレと
オレ達が恐れるもの
みんな愛のトンネルへと
入っていくのさ

オレ達を5Dに見せる
いかれた鏡がある
オレは君を笑い
君はオレを笑う
すごく暗い影の部屋がある
この愛のトンネルの中では
2人の人間にとって
お互いを見失うのは簡単だ

十分に簡単で
単純であるべきだ
男が女に出会い
2人は恋に落ちる
でもお化け屋敷は取り憑かれ
乗り物は荒くなっていく
生きるために
克服できるものと共に
学んでいかなければならない
この愛のトンネルを
通り抜けたければ
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by charvy | 2010-02-28 14:37 | PV

ストーリー「気高い君が欲しい」 ① 出会い

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僕の仕事は広告写真の撮影がメインだ。しかし最近では広告プランを立てたり、もちろん戦略、機能、判断、効果、反響、結果予測、クライアント社内へ意識効果などブランディングや書く仕事も増えていた。

今日は六本木のヒルズ森タワーにある、大手コンピューター会社の広告の仕事でスタッフの初顔合せの日だ。

横浜のスタジオから都内への打ち合わせに向かう時はいつも地下鉄なのだが、僕はこの日、会議が終わると二、三日のOFFになるのだ。

すぐさま箱根へ行く予定なので、ステーションワゴンに2泊分の荷物を積み込み、この会社のあるビルの地下駐車場に車を滑り込ませた。

ゲートをくぐるとロータリー式になっていて駐車スペースも十分だ。僕は一番奥から3番目の空いたスペースに車を止めた。

両サイドに止めてある車はアストンマーチンとフェラーリ。さすが森タワーの地下だ。

僕はエンジンキーを抜き、ドンケのカメラバックを抱え車のドアを開た。

ドアを閉め、昨日買ったばかりのオールデンVチップコードバンの靴紐を結びなおし、エレベーターホールへ歩いて行った。

新しい革靴のヒールがいい音を立ててホールに響いている。

数台の防犯カメラに僕は見守られながら、一人でエレベーターに乗り込みcloseボタンと48階のボタンを押した。

ドアがあと8センチで閉まろうとする瞬間、スリットから女性らしき姿が見えた。

あわててオープンボタンを押した。

エレベーターの動きにブレーキが掛かりドアが開いた。

黄色灯の光と地下駐車場の壁にほかの車が曲がる音が響いた。

僕が下を向いていると視界にとても綺麗な赤いパンプスを履いた女性の足もとが、エレベーターの入り口に見えた。

「 すみません、おそれいります 」

その女性がお礼を言いながらエレベーターに入って来た。

エレベーターが動き出しドアの隙間から近代建築らしい臭いがしてきたが、それとは少し遅れてまだ足元しか見ていない女性の香水の匂いがかすかにしてくる。

普段僕は、同じエレベーターに乗る人をじろじろとなるべく見ないようにしているが、今回は僕の食指にさわった。

ゆっくりと視線を上げると、思ったとおりのそして気高いと表現すればいいのか、ちょっと声をかけるだけでも勇気のいるような女性がそこに立っていた。

背丈はヒールを合わせて175センチくらいあり、グレーのスーツにおしゃれなひらひらの付いたシャツを着ている。

眉はシャープにラインを描き、目はぱちりとしているが形はきれながだ。

年齢は27歳くらい?頬には二つキュートなほくろがあり、唇は見事な富士山型で下唇の厚みも十分だ。

その唇から顎のラインも日本人ばなれしていて、よく見ると顎がかすかに二つに割れて見える。

そこから首筋には顔の輪郭を縁取る陰が白い肌にぼかしをかけている。

髪はロングなのに、緩やかなウエーブがヘアカラーのグラデーションと共に軽やかさを出している。

指輪ははめていないが、爪にはすてきなネイルアートが施してある。

右手にはリモアのアタッシュ。左手には広用紙の筒を抱えていた。

その女性が何階のボタンを押すのか気になったが、いっこうに気配がない。

このエレベーターは最新型だけあり、すごい速度であっという間に48階の扉が開いた。

僕が先に降りた。

彼女も同じ階だった。

エレベーターを降りてすぐの受付で、身分を記入してすぐ振り返ったが、彼女はこの広いオフィスのどこかへ消えていた。

受付の女性の笑顔につられながら会議室を案内してもらう。

この会社は外資系で社内はすごくオープンだ。

とりわけ変わっているのは、社員全員決まったデスクがないのだ。

いたるところにテーブルやソファ、カウンターが設置されていて、社員は自分の好きな場所でノートパソコンで仕事をしている。

案内された会議室もガラス張りで外からは丸見えだ。僕はまさかトイレまでガラス張りじゃないかと一人想像して笑った。

すると先に到着していた広告代理店のディレクターがガラス越しに僕の名を呼んだ。

「 おー拓也!お疲れ様、今日はよろしくね!  初顔合わせだからあまり熱くなるなよ 」

僕は了解とばかり口角を横に広げた。



5分ほどしてクライアントの広告チームが一斉に5人現れた。

僕の予想が的中した。 やっぱりさっきエレベーターで会った女性も今回のプロジェクトに関係していた。

雰囲気的にこの会社の中でひときわ異彩を放っている。

上司らしき男性もこの女性には対等か、いやそれ以上の神経を使って対話をしている。

僕はこの会社の規模やプロジェクト内容より、今、目の前にいる彼女の放つ雰囲気に緊張していた。

全員が立ち上がり名刺交換が始まった。

次々に名刺を渡す。

最後その彼女へ名刺を渡す番が来た。

彼女と目が合った。

すると一瞬だったが、彼女の瞳の奥が少し開き何かを感じたみたいだった。

僕は名刺を補充するのを忘れていて4枚しかケースに入ってない。

慌ててカメラバッグの中をより分けると底の方に折れ曲がった名刺が1枚だけ見つかった。

僕は失礼かと思ったが、折れ曲がった名刺を手で伸ばし

「 こめんなさい 」と言って彼女に渡した。

彼女は少しは愛想笑いでもするかと思ったが、毅然として表情を少しも崩さない。

僕は心の中で、少しはニコッとしろよ。割と好みなんだから、と思った。

僕は名刺を見た。

彼女の名前は 橘 美咲、どおりで気高いと思った。きっと血液型はBかABだろう。

その日の会議はあらかたなスケジュールとコンセプトの見直し、今回起用するタレントのセンスの守備範囲までが話された。

会議の内容はディレクターに任せ、僕は今回のクライアントの人柄を観察した。

特に目の前の気高き彼女。

クライアント担当者らの一通り話を聞いたが、今回の仕事はやはり彼女が鍵を握っているようだ。

僕は会議中、気分ではない時はそんなに仕事の内容などをしつこく考えないようにしている。

それより今回出会った人物の話と気迫を感じ、一通りのストーリーをしばらく咀嚼して自然に吸収し、時を待ち、時合いが来ないと本流に入らない。

いや、そうしないと、とにかく速度が出ないのである。

会議が終了した。

僕はカメラバッグを肩に掛け、うざいディレクターをおいてけぼりにして、そそくさと会議室を出て地下駐車場に降りた。

車に戻り、カメラバッグから35㎜のレンズの付いたニコンを助手席に置て、ステーションワゴンを国道246号線方面に走らせた。



箱根には戸建て形式のホテル旅館がとってあり、そこに今付き合っている彼女が先に行って、僕を待っているのだ。

彼女の名は 美紀 といい、付き合い初めてまだ1年になっておらず、お互いの友人を全員紹介しきれずにいた。

箱根のホテルの駐車場に着いたころは、もう薄暗くなる夕方7時半を回っていた。

車のライトを消し、近づいて来たホテルマンに名前を告げ、車と荷物をまかせホテルの離れにあるガラス張りの素敵なレストランに急いだ。

晩秋の冬になる直前、近くの湖から確実に冷気が方向を示すように東側から感じていた。

歩きながらネクタイを外しポケットに入れ、シャツのボタンを上から三つ外した。

やっと美紀に逢える。僕の心は急ぎ足だった。

レストランの入り口に近づくとボーイが、彼女が座っている席へと案内してくれた。

「美紀、おまたせ! 30分待たせたね。 お腹すいただろう」

彼女はゆっくり振り返り

「お疲れ様。 ゆっくり楽しんでたわ」

と微笑んでみせる。

美紀のいいところだ。僕がどんなに待たせても、失敗しても彼女は決して怒らない。

それどころか、親身に僕の今現在の心に同期して、やさしい言葉をかけてくる。

僕はそんな美紀がそばにいてくれるだけでほっとする。もちろんこんなにも僕を優しく包んでくれる女性は初めてだ。

今回、僕らはお互い忙しい合間の久々の小旅行。明日はこのホテルの湖の畔にある建物でパーティーに参加する。

美紀とワインを飲むのは久しぶりだ。 美紀も最近やっとワインの味が少し分かってきたので、ちょっぴり贅沢なワインをセレクトした。

ボーイが「 2004のブルゴーニュ グランクリュでございます 」

と言いながらリーデルのソムリエラインの大きなグラスと共に持ってきた。

彼女の方にテイスティングをしてもらった。

美紀は満弁な笑顔で顔を立てに振った。

そうとう薄いグラスなのでグラス同士がぶつからないようすれすれで二人は乾杯した。

美紀がワイングラスをそっとテーブルに置き

「 明日、初めて拓也に会わせる友達がホテルを訪ねて来るの 」

「 どんな子。かわいいの? 」

「 さ~それは会ってからのお楽しみ。きっと写真、撮りたくなるわよ 」

「 楽しみだ 」

しばらくフランベを楽しんだあと部屋に戻った。




次の日が来た。

朝から空は高く晴れ渡りいい天気だ。

ホテルの庭先、湖畔の遊歩道を二人で散歩した。

葉の落ちた明るい雑木林の向こうから筋状の雲が僕らの頭上まで続いていた。

「 美紀、友達は何時頃ここに来るんだ? 」

僕がたずねた。

「 さー彼女、仕事人間だから何時になることやら。でも仕事のスピードはとっても早いほうよ 」

「 そうか、その点は僕好み 」

二人は笑った。



その日、時計の針も夕方4時をさす頃、湖畔の彼方からオートバイの排気音がこだました。

美紀が、

「 もしかしたら来たわ 」

「 え? 」

「 彼女、オートバイに乗るの 」

オートバイの排気音が近づいて来る。

音から想像するとVツインの2気筒のけっこう排気量の大きいオートバイだ。

視線をホテルの東側、雑木林の向こう側の町道に向けてみると、クラシカルなアメリカ製のオートバイが目に入った。

アメリカンタイプではあるのだが、小振りなガソリンタンクをフレームに載せ、フロントフォークは割と立っていて、このオートバイは見かけよりも全然スポーティーな走りが出来そうだ。

ホテルの本館横の彫刻アートのある脇の駐車スペースに止まった。

ライダーは体つきはどう見ても女性だった。16オンスのジーンズにエンジニアリングのブーツ、上には革製のライダーズジャケットを一番上のボタンまで締めていた。

彼女は一度アクセルをあおりひと吹かせしてエンジンを止めた。

美紀は友人と確信したのか、駆け寄っていった。

ライダーである彼女がグローブを外しブコのオープンタイプのヘルメットを脱いで顔を左右に振った瞬間、長い髪がさらっと背中へなびいた。

「 美咲、久しぶりー 」

美紀はとっても嬉しそうだ。

僕も隣へ追いつき、オートバイにまたがっている彼女に目をやった。

彼女が顔を上げた。

僕は一瞬でわかった。

昨日、打ち合わせに行ったヒルズタワー48階の彼女だった。

「 美咲、紹介するわ。拓也、私の彼 」

僕は彼女と目が合った。昨日と同じく彼女の瞳の奥が一瞬開いた。

僕は彼女に向け挨拶どおりの笑顔をだした。

彼女は「 初めまして、美咲です、 あらっ 昨日の熱いひと 」

彼女の目がまん丸になった。

「よう!」僕はプライベートモードの答え方をした。

美紀が

「 あなた達、知り合い? 」

「 いや、昨日の仕事先のオフィスで同じプロジェクトだったんだ 」

「 へー偶然、ミラクルねー 」美紀が感心した。

美咲が

「 びっくりしました。あなたが美紀の彼だとは 」

「 偶然だね。来週の会議、今から済ませちゃうか 」

と僕が冗談を言うと美咲がやっと笑った。

もちろん初めて見る笑顔も素敵だった。

僕はまだその時、今目の前にいる 美咲 に首ったけになるとは思いもしていなかった。
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by charvy | 2010-02-27 20:47 | 小説

春カメラ。

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今日は陽射しに満ちてとっても暖かく、もう春の光だ。
この時期になると、出動するカメラがある。

以前、書いたストーリーにも出てくる6×6ハッセルブラッドだ。
このカメラの特徴は物語を読んでもらうことにして、
この気分のいい日に早速フィルムを装填してみよう!

きっと期待に満ちあふれた「春」が写るような気がする。
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by charvy | 2010-02-24 22:16 | 撮影機材

欲望


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by charvy | 2010-02-24 10:17 | PV

Rain Girl


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by charvy | 2010-02-24 10:15 | PV

ストーリー「初恋」後編


彼女の日焼けしたぬれた身体は素敵だった。
僕らは1987年の夏、江ノ島のすぐ近くの東浜海水浴場にいた。
左手には三浦半島が一望できる。
江ノ島の島陰にあるので波が穏やかだ。
海水浴客で人はごったがえし、ビーチの背中には海の家が25件、出店が30件ほど店先を連ねている。

となりでビーチマットに仰向けになり真夏の太陽を全身に浴びる彼女。
まだこの時代、紫外線が体に悪く、シミの原因になるなど誰もしらず、健康のためと日を浴びていた。

ビーチではサザンの音楽が流れている。
僕はふざけてビキニ姿の彼女のおへそに砂を盛ったりして遊んでいた。
彼女が笑うと、そのお腹の上の砂山がひび割れして崩れていく。
ビキニ姿の彼女はすごくスタイルがいい。胸元からバストにかけてのライン、それに仰向けに寝転がってもペタンコにならない
ほどよい大きさの形のいい張りのある胸。
腰骨からふともも、ふくらはぎまでつづくビーナスライン。
僕の頭の中ではアパートに二人で帰り、夜は彼女を思いっきりいつもどうり抱くのだと欲望を募らせていた。

彼女と付き合い初めてもうすぐ2年。僕はバイトと別々の家に戻り寝る時以外は、学校もプライベートもいつも彼女と一緒だった。
今まで彼女の時間は、全部ほぼ把握していたつもりだ。
気持もわかっていたつもりだ。
しかし最近、連絡が取れない日がしばし続いたことがあった。

気にはなっていた。
その日の夕方、仲間とみんなで多摩川の河原でバーベキューをやった。
そしてその後、近くのコインシャワーで一室に二人で入り100円で済ませアパートに戻った。
僕はアパートにもどるなり、彼女を抱き寄せた。
いつもだったらそのまま、ベッドに直行のはずが今日は違った。
彼女は下を向き、急速に僕の目の前で元気をなくした。
僕も無理矢理なことはしなかった。

何かあったに違いないと僕は思った。

「何かあったの?」

僕の問いに彼女は下を向いているだけだった。
今晩は夜風が強く、窓ガラスと網戸がカタカタ音をたてていた。


次の日、僕は里帰りのため羽田にいた。
彼女には出発時間を伝えてあり、僕は搭乗時間ぎりぎりまでゲートの近くのベンチに座っていた。
彼女はとうとう見送りに来なかった。

何がいけないのか僕にはわからなかった。

僕はものすごい不安とともに飛行機に乗った。
座席に着き機内の天井にあるエアコンの送風口を顔に向けた。
いよいよ飛行機が離陸した。トワイライトタイムに窓際の席から見た東京の街は、飛行機が九州に向け旋回をするとき
非常に綺麗にそして僕の目にまどろんでいた。

熊本に帰るのは1年ぶりだ。
熊本空港からバスに乗り市内へと向かう中で、僕らはきっと大丈夫。
そう思うしかなかった。

熊本へ帰った次の日から卒業制作のため、作品撮りをやった。
1秒でも立ち止まれば彼女の事が気になり始め、どうしようもなくなる。
僕はとにかくカメラを握ったまま、心を支えていた。

撮影しては実家にある暗室でプリントを焼き、10日ほどで無事60枚ほどの阿蘇のランドスケープ作品が出来た。
夜には必ず2日おきに彼女の家に電話をかけた。
なんとか作品がまとまり、夏休みが終わる一週間前には横浜に戻る約束をした。


日差しの強い8月の第三週、僕はアパートのある横浜に戻って来た。
ポストを開けてみると、どさっと足下に郵便物が落ちた。
年明けではないのに、年賀状みたいに大量にはがきが届いている。

差出人は全部彼女からだった。

僕がここにいない約一月間の間、毎日の出来事を僕に伝えるように、書いていたようだ。
アパートのドアを開け、一ヶ月間締め切っていた部屋のにおいを感じながら電話に向かった。
そして彼女に今、アパートに着いたことを連絡しようと思い受話器をとったら、電話代を払い忘れていたため使えなくなっていた。
僕はすかさず電話ボックスに走った。

一応、電話ボックスにたどり着くまで、はがきを順番通りに急いで斜め読みした。
そして最後から2枚目のはがきを読んだ時、僕の足はカクンと止まった。
そこには、

「ごめんなさい。私、あなたに一つだけ話していない事があります。
私にはあなたとおつき合いする前に高校時代から付き合っていた先輩がいて、
その人が留学先から来春、帰国します。」

僕は電話ボックス手前25メーターくらいの場所で路肩にしゃがみ込んだ。
そのままその先の文章を続けて読んだ。

「私は二年前、新しい学校で、新しい環境の中で毎日、遠距離恋愛の切なさと戦っていました。それから彼から連絡がだんだん来なくなり、
そこへあなたが現れました。彼のことは好きだったけれど、すぐ近くにいる優しいあなたに私は心を引かれていきました。
私も夢中で楽しかったし、連絡も来ない彼のことは忘れかけていました。
しかし今年の7月、彼がいきなり私の家の前に現れたのです。
彼の話では、四年間の留学が終わり日本企業に就職が決まったので来年の1月末に戻ってきます。
この前、私が何日かいなかったのはその彼に会っていたからなのです。」

と。 僕はかなりショックを受けた。
アパートに引き返し、昨日が消印の最後のはがきを読んだ。

そこには、

「ほんとうにごめんなさい。私はやっぱり彼の事が忘れられません」

と綴られていた。僕はなぜとは思いもせず、ただかび臭い部屋の中で呆然と座っていた。


一週間が経ち新学期が始まった。僕は学校へ行きたくなかったが、しかたなく向かった。
教室にはいつもと変わらないみんなの笑い声。
そして授業が始まるぎりぎりに彼女は姿を現した。

一ヶ月ぶりに見る彼女。
いつの間にか髪の毛が長くなっていた。

僕の心は手紙の内容のままなのに、彼女の表情は普通に普段通りだった。
2時限目が終り昼休み。
僕はたまらず彼女に声をかけた。

「よう! 久しぶり! 元気だった?」

そしたらとっても普通に

「熊本は楽しかった? 横浜は暑かったのよ」

とてもああいう内容の手紙を送ってきた本人には見えなかった。
その彼女の態度に僕はなおさら胸を強く強くえぐられた。
もう彼女の中では僕との事は終わったということなのか?
あっけらかんとした彼女に僕は優しさを見いだすことは出来なかった。

僕は情けないが午後の授業を受けることが出来ず、学校を飛び出した。
日吉の駅から電車に乗り渋谷まで出て、環状線の電車に乗り換え、何時間も都内の風景を車窓から眺めていた。


それから時が経って1988年の1月が来た。
僕はどれくらい自分の心を取り戻せたかわからないが、彼女に対して一つだけ、心残りなことがあった。
それは今まであんなに好きだった彼女に対して、まじめに一度も写真家としてカメラを向けたことがなかったことだ。

もう1月も終わろうとする中、僕は勇気を出して彼女にお願いをした。

「今年の春が来たら卒業だね。 最後に君の写真を撮らせてくれないか?」

すると彼女は少し考えて

「いいわよ。その代わりフィルムは1本だけにして」

僕はまた胸をえぐられた。

「よかった。じゃー今度の土曜日に。」

彼女の1本だけにしていう言葉は、もう僕と一緒にいたくないのか、もしくは早く僕を立ちなおさせるための優しさなのか?

もうどうでもいい。



土曜日が来た。彼女を撮影する日だ。
場所は2年半前、彼女と初めて逢った、多摩川の河川敷。

空は高く晴れ渡り小春日和だ。雲雀がずっと僕の斜め上で鳴いている。
僕は早めにこの場所へ来て、ハッセルにプラナーの80㎜のレンズを付け
背景になる場所をロケハンして回った。
カメラは35㎜とは違ってワンロール12枚撮りだ。
それで完全に彼女とのやり取りがすべて終了する。

時間に5分ほど遅れて彼女が二子多摩川駅から出てきた。

「よう!」

「お待たせ」

撮影のためなのか、いつもより、いや今まで見たことのない大人びたファッション。

僕は手早くブローニーフィルムをハッセルのマガジンに装填した。

フィルムはコダックのコダクローム64。
重圧な発色で高解像度、なにより耐変色性に定評がある。

まず僕はこの草地の獣道ならぬ人道の真ん中に立つよう彼女に伝えた。

彼女がそこへ立った。全身が入るようにフレーミングした。

彼女が川向こうに視線を向けた瞬間、僕は1枚目のシャッターを押した。

その直後、僕は彼女の方に5歩近づき、彼女は利き目の左目を前に僕のカメラに視線を向けた。

表情はとても穏やかだ。どこにも力が入ってなく僕の方にとても自然な顔をしている。

僕はこんな表情に弱い。光の向きは逆光だ。

僕はそのままの彼女の自然な表情を絞り2.8半、シャッターを1/250に合わせ2枚目のシャッターを押した。

それから彼女は手を広げ空を仰ぎ背伸びをした。僕はすかさずしゃがみ込みローアングルで彼女越しの澄み切った空を入れ3枚目のシャッターを押した。

僕は彼女に

「少し歩こう。 僕の前を6歩ほど先を歩いて」

彼女は無言のまま言うことをきいた。

僕の目の前を彼女が歩いている。突然彼女は春が来て喜んでいる鳥のようにステップを踏んだ。

僕は片膝を地面に付きその後ろ姿に4枚目のシャッターを押した。

そして彼女が振り向いた。そして立ち止まり、僕に向かって微笑んだ。それはまさに付き合っていた頃の顔だ。

5枚目のシャッターを押す。

とうとう僕の押さえ込んでいた心が動き出した。

彼女も精一杯僕の前でモデルとして自分自身の今を表現している。

あと7枚。

次に彼女は無邪気な表情をし僕から逃げるようなかっこうで、斜め後ろに下がりながら駆けた。
僕は追いかけながらシャッターを続けて2枚押した。

きっといい感じでぶれて写っているはずだ。

そして彼女に追いつき彼女を捕まえ、たまらず抱きしめた。

そしたら彼女が

「まだ撮影は終わっていないわよ」

と言いながら僕をいきなり突き飛ばし、また無邪気に笑いながら逃げた。

僕はカメラを左手に持ったまま彼女を追いかけた。

僕は右手で彼女の左手をつかんだ。

彼女はカメラを持った僕の左手首をつかんだ。

僕らは手をつなぎ合い、ぐるぐる円を描くように回った。少し目が回ったとこで、多摩川の河川敷、まだ花のさいていない菜の花の葉っぱの上に倒れ込んだ。

二人とも笑った。耳を澄ますと光に満ちた青空に雲雀が一生懸命縄張りを主張していた。

「楽しい」

彼女がささやいた。

しばらく二人で雲の行方を追った。

そこには僕らの2年分の思い出のように色んな形の雲が浮かんでいた。

ほかの雲とくっついて大きくなる雲。 上空で丸かった綿雲がだんだん細く楕円形になり、そてが二つに分かれ右の雲の方から先にだんだん薄くなり空に消えていったりした。

僕は寝転がったまま彼女の横顔に向け10枚目のシャッターを押した。

それからしばらくして雲が太陽の光を一瞬さえぎった。

それと同時にもうすぐ終わってしまうこの最後の撮影に、僕らの顔色もグレーになっていった。

彼女は下を向いていた。

「あと2枚フィルムが残っている。」

今度はしっかりフィルムに彼女を露光するために順光になるように方向を変えた。

1月の澄み渡った空から降り注いでくる冬色のフィルターが、目の前にいる彼女の顔色にやさしい、少しアンバーな色をのせていた。

僕は今、目の前にいる彼女に再びカメラを向けた。

彼女もゆっくりと僕に向けて顔を上げた。

僕はハッセルブラッドのファインダーフードをもう一度起こし覗き込んだ。

ファインダーの中で彼女が佇んでいる。

僕はピントを合わせようとした。

しかしなかなかフォーカスが合おうとしない。

どうしたんだ。

自分に問いかけた。

さっきまで笑っていた彼女の頬にもひと筋の涙が流れた。

僕は袖で自分の目をこすりクリアーになった目でもう一度ピントを確認してシャッターを押した。

精一杯だった。



すると河川敷の背中の丘の上から車のクラクション。

見るとドイツ製のスポーツカーが止まっていた。

その車から男が降りて来て彼女に向かって手を振っている。

僕が彼女に

「あれが彼氏?」と訪ねたら。

「うん」とそっとうなずいた。

そして僕は一歩彼女に近づき握手をした。

「ありがとう。」

彼女も小さい声で

「ありがとう。」

と目に涙をいっぱいためながら言った。

「もう行けよ!」

言いたくなかった。

彼女はベンチに置いたバッグを手に取り軽く僕に手を振りながら土手の上の車にむかって歩き出した。

彼らしき男が助手席のドアを開けた。

彼女は車に乗り込む寸前、もう一度僕の方に手を振り車のシートに潜り込んだ。

そして彼女を乗せたスポーツカーは水平対向エンジン特有の排気音をだして河川敷に沿った丘の上を遠く下流の方へ走り出し見えなくなった。

僕は一人になった。

しかし、最後に彼女が見せてくれた涙に、僕の心は相当救われた。

そして思い出した。彼女を迎えに来た男。

彼女と初めて出会ったこの場所で約2年半前の春、迎えに来ていた人と同じやつだった。


それから僕はハッセルのマガジンのカウンターに目をやった。

カウンターの数字は12枚目、あと1枚残っていた。

僕は無意識なのか、わかっていたのか自分でもわからないが、最後の1枚のシャッターは押せずにいた。

もしこの最後の1枚を押してしまうと、燃える夜を貫いて愛してきた彼女が、永遠に僕の前から消えるような気がしていたから、

どうしても、どうしても押せなかったのだ。



僕はそのままベンチに座った。

そして突風が河川敷の砂を巻き上げ、僕のぬれた頬に突き刺さった。

そして僕は途方にくれた。
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by charvy | 2010-02-21 20:28 | 小説

小旅行、天草。

今日はお昼から天草方面に車を走らせた。今回はめずらしく助手席だ。ほんと今日もいい天気。しばらく走ると車の中はポカポカだ。
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1号橋を渡ってしばらく走って、いつもは通り過ぎてしまう右側のお土産屋さんの駐車場に車を止めた。そしたらコンビニと土産屋の建物同士の間から、見慣れない角度から見た三角ノ瀬戸から望む中神島が、晴れ渡った空に反射した海に浮かんでいた。
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それから天草パールラインを南下し野釜島の海岸へ向かった。僕の記憶より海岸と海の水は美しかった。
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by charvy | 2010-02-20 14:36 | 旅、OUT DOOR Life

ストーリー「初恋」前編



僕は二子多摩川駅のホームに沢山の荷物をかかえ立っていた。
目の前を通り過ぎる急行電車が春の期待がいっぱい詰まったなまぬるい風を運んできている。

そう、僕は九州の高校を今年の春無事に卒業して、写真を学ぶため横浜の日吉にある写真専門学校に通い始めるのだ。
住むアパートも決まり、初めての一人暮らしのため、親に出してもらった軍資金の範囲内で家財道具を買い集めていたのだ。

僕にとってこの街の印象はもっと都会と思っていたが、都心を少し外れると意外に
今まで暮らしてきた熊本の街とそんなに変わらないので田舎物の僕は少し安心していた。

季節はもう春。電車の車窓から眺めていると多摩川沿いの河川敷では日曜日ということもあり、色んな人がレジャーをやってたりランニング、犬の散歩をしていた。
僕はその風景に写欲がわいた。
僕はさっさと大倉山のアパートに荷物を置き、カメラバッグをかかえ、再び田園都市線に乗り二子多摩川駅に降りた。

僕の右手にはハッセルブラッド。スエーデン製の6×6スクエアフォーマットのカメラだ。
このカメラはファインダーを上からのぞく。
写す側の顔が写される人の方を向いていないので意外とリラックス出来る。
ファインダーに映る映像は天地はそのままだが、プリズムでレンズからの映像を反転しないため左右が逆になる。
そのため、なれるまでは動く物とかを追いかける時、逆方向にパンしてしまいそうになる。
そしてこのカメラの一番の特徴は画面がスクエア、真四角なのである。そのため縦横の感覚がないのだ。
そのため縦横とフレーミングに悩まなくてもよく、たとえば人の全身を撮影するときに、いきなりその人が両手を広げ空を仰いだとしてもフレームアウトすることはないのだ。
それに風景を撮影してもちゃんと空高く上の方まで画面に入り、空の肝心な部分が切れない。
そう言った理由で僕はこのフォーマットがたまらなく好きだった。
フィルムはトライエックス。コダックの定番モノクロフィルムだ。感度がASA400あり動きのある被写体や朝、夕のマジックアワーに手ぶれをせず撮影することが出来るのだ。
そういうことで当時の報道ジャーナリストカメラマンはほぼこのフィルムを増感して使ったいた。

駅の真横を線路にそって国道246が走っている。その反対側の改札を抜け階段を下りたら目の前が多摩川の河川敷だ。
僕はアスファルトの歩道から草の緩やかなスロープ降り、川沿いの細長い草地を歩いた。獣道ならぬ人道が出来ていた。
そこを歩いていると被写体には困らない。犬を散歩させているにはファッショナブルな格好の人や禁止されているのにゴルフの練習を堂々とやっているひと、カップルなのだろうか仲良くお弁当を広げているふたり。
この草地の背中側の土手にはタクシーの運転手が暇そうに車を止めたばこをふかしている。
まさに1985年の長閑な都市風景。
まだ世の中の人間が果てしない欲にあふれ、またそれが発展という希望に満ちあふれ、エコロジーなどという言葉はまだだれも知らない、ある意味やさしい時代だった。


僕はすでに2キロほど下流へ歩きフィルムは3本ほど撮り終え4本目にロールチェンジするため、新しいフィルムを口にくわえ、撮り終えたフィルムをリワインドしていたその時だ。

僕の後ろからいきなりドスンと人がぶつかった。

「いてっ」

「ごめんなさいっ」

2歩ほど押し出され振り返ってみると、そこに一眼レフのカメラを握った女の子が立っていた。

「ごめんなさい、つい撮影に夢中になっちゃって」

今となっては珍しくないが当時、十代の女の子が大きな一眼レフのカメラを首からさげているだけでもおもしろい。

「ぜんぜん、 何を撮ってたの?」と聞くと。

「川の向こう岸とこちら側のグラウンドの前に生えている木までをフレーミングに入れていたら、あそこの鉄橋に電車が走って来たの。今だーって思ってシャッターを切ろうと思ったけれどもう少し引きで撮りたくて後ろ向きに慌ててさがっていたの」

「そうか」こっちに来て初めて同年代の女の子としゃべった。

彼女のカメラに付いているレンズを見ると50㎜の標準レンズ。そりゃさがらなければ端から端まで入らないはずだ。

するとその子が

「あなたも写真撮ってたの?  変わったカメラねー」

「ん、僕は引きの風景じゃなくて、人を絡めた軒先風景というか、そんなの」

「? そうなんだ」わかっているのか、わかってないのか曖昧な返事。

彼女の視線がさっきから僕のカメラに向かっている。

「このカメラ、さわってみる?」

「え~いいの?」

僕は彼女のカメラを受け取り、僕のカメラを彼女に渡した。

「どうやって握ればいいの?」

楽しそうだった。

ハッセルの構え方や動作の一連を教えて、彼女の今、一番近くにいる被写体の僕に彼女はレンズを向けシャッターを押した。

ばふっと音を立てこのカメラ特有のシャッター音がした。

彼女は楽しい喜びの表現としてじたんだを踏んだ。

そしたら今度は不思議そうな顔に。

「のぞくけれどファインダー真っ暗」

僕は巻き上げレバーを巻く動作をした。

彼女はカメラの真横についているレバーを巻き上げた。

「プロみたい。」

彼女はまたステップを踏んだ。


すると土手の向こうから車のクラクション。

迎らしき車が止まっている。若い男が車の窓から手を振っている。

「じゃ。ね。」と言って車に乗って去って行った。

この時、僕は他愛もない出来事として気にはしていなかった。


3月も下旬、専門学校の入学式。
僕は着慣れないジャケットをはおり出席した。
生徒のほとんどが男子だ。
少し予想はしていたが、華のない学生生活になるなーと思っていた。
壇上では写真家でもある土田ヒロミさんが校長としてお話になっている。
学生としては現役写真家が校長を務める学校だから期待は膨らむ。
しばらくして入学式も終わり各コースに分かれて教室に入った。
すると50名ほどの生徒の中に女の子らしき姿を見つけた。
ここからでは後ろ姿しか見えない。
まあー振り返って見たところでと、そんなに気にもしていなかったが、
授業内容の説明が終わって教室を出る時、僕の目にあの子が止まった。

そう、多摩川で僕にぶつかってきた、あの子だ。
ほとんど男子の中にいる彼女は、初めて会った時より断然綺麗に見えた。
僕は掛けより

「よう!」と声をかけた。

「あらー」彼女も驚いている。

「ここに通うんだー」僕が言った。

「この前はごめんなさい」

「いぁなんにも」

この学校の少ない女子学生の中でも彼女がとびっきりかわいい事がすぐにわかった僕は
他の男子生徒より少し優越感だった。

彼女は短髪でボーイッシュ、永井真理子そっくり。耳にはいつもウオークマン。U2のボーノの大ファンらしい。
目はまん丸で笑うとえくぼが綺麗な形でふたつほっぺに咲いていた。
話しを聞くと地元の子で、実家は伊勢佐木町の商店街でなにやらご商売を営んでいる。
まだこの頃は今、目の前にいる彼女に恋心を抱くなど思いもしなかった。

前期の授業が始まった。この学校は座学と実習の繰り返し、おまけに作品も定期的に発表しなければならない。
座学は写真の歴史から現代に至るまでの役割と存在。社会との関係、精神論、哲学にまで及んだ。
僕は眠たくて眠たくて。
しかし実習は違っていた。35㎜の36枚1本のフィルムの制限の中でテーマを決めどれだけ濃い物を撮影出来るかだったり
渋谷で人に声をかけ街角で見知らぬ人のポートレートを100人撮影してくるとか、高校時代から人一倍フィルムを回していた僕には得意げでとにかくおもしろい。
こういった授業もコースが一緒なので彼女と僕はいつも近くにいた。

そうやって調子込んでいる僕にこういう事があった。
実習で生徒同士ペアを組み、相手の色んな表情をアップで撮影をし5枚組でまとめ上げるといった内容だ。
僕はもちろんその子とペアを組みたかったが、関取みたいな太った男子と組むことになり、彼女が組むことになったのは僕が一番警戒していたイケメンの東京野郎だった。
なんせ東京野郎は僕と違ってセンスがいい。
春ももう終わろうとしているのに、地肌にサマーセーターをはおりマフラー?見たいのを首に巻いていた。
あるときはイタリアだかフランスだか忘れたがとても仕立てのいいシャツをさらっと着て胸のボタンと上から3つも外し、そこになにやらネックレスみたいなキラキラを
下げている。もう災厄。というか僕のひがみだ。

撮影場所は何処でもよく、1日自由時間。明日の朝一に暗室で現像を始めればよいスケジュールだった。
彼女とその東京野郎はなかよさそうに学校の外へ。
僕は関取相手に表情など研究して撮影する気もまったくなく、カメラにモータードライブ(1秒間に5~6枚連写する機械)を付け廊下の地明かりで6秒で36枚撮りのフィルム1本連写して撮影を終えた。

次の日の朝、案の定、彼女と東京野郎がニコニコしながら暗室に入って来た。
お互い撮り合ったフィルムを現像してプリントし午後の授業で発表するのだ。
東京野郎に彼女がどんな風に撮られているか気になってしかたがない。
当時、初心(ウブ)だった僕にとって彼女のアップの写真を撮るということは彼女にキスするのと変わらないくらいドキドキすることなのだ。
なので東京野郎が彼女の顔のアップを写すというのはもの凄くいやな事だった。

午後の授業が始まった。みんな四つ切りの印画紙にプリントをし、5枚組にまとめていた。僕は関取を6秒で撮り終えていたので5枚組にまとめようにも同じ顔が続くばかりで作品になっていない。
関取が僕の顔を撮った写真は、嫌々ながらだったが、怒っていたり悲しそうだったり昨日のまんまの僕が写っている。
順番に発表がつづく。僕の順番が来た。先生は僕が撮影した5枚組の写真の表情の変化のあまりのなさにコメントはなく、頭を少し傾げ次の生徒の写真に評論を移した。
それからいよいよ東京野郎の番が来た。今日も仕立てのよさそうなエメラルドグリーン色のシャツをはおり襟を立て、ダンディに無精ひげのエッジを剃り一仕事後のエグゼクティブ気取りだ。
やつが1枚1枚彼女の写真を黒板に貼っていく。
僕は下を向いていたが仕方なく勇気を出してその張り出された写真の方に目を向けた。

するとなんと言うことだ。
そこには僕の想像をはるかに超えた彼女のポートレートが並んでいた。
あまりの衝撃に気を失いそうになるぐらい驚いた。
やつは彼女の胸元ぎりぎりまで服を下ろし、写真ではまるで裸みたいに写っている。
彼女の肩胛骨もくっきり、そして胸の谷間もちょっぴりだけ。教室内が一瞬ざわめいた。
そして1枚1枚の写真の表情もとんでもない。
笑っていたり、見つめていたり、口に力を入れ力んでいたり、口が少しだけぽっとあいたセクシーな表情、最後の5枚目はとうとう彼女は本物?っぽい涙を流していた。
もう完全にやられた!
もう僕は頭がおかしくなる寸前だった。
もちろんゼミの先生からは大絶賛。フレーミングでおでこを切り、ヌーディティな胸元をアングルに入れるなど、その表情をもり立てる空気感がそこにはいっぱい写っていた。

そこにある写真は僕にとって、彼女はもう東京野郎に抱かれたのと同然だった。

言い訳になるが僕の相手はなんの興味の無い関取男子。あまりにも題材モデルに差があるとは思った。僕は彼女の写った写真と作家としてのプライドに沈没した。
東京野郎はさておき、あれだけ写真に惚れ込んで地元を飛び出し横浜まで勉強しに来たのに、女の子に気をとられ写欲は萎えどうしようもない状態だった。

僕はその日、バイトを休みアパートに帰り倒れ込んだ。
一晩が経ち、いつもの水曜日の朝が来た。僕は空ろな目で自分を鏡で見ていた。
昨日ほどの胸の痛みは無かったが、十分に胸は苦しかった。
学校へ登校してみると彼女が楽しそうにみんなとしゃべっている。
その姿を見ていたら、もう少し胸の締め付けるような痛みは減っていった。
そして授業が始まった。今日は写真論の哲学の話だ。
僕の心は十分にやつの写真によって打ちのめされた、とでも授業で発表したい気分だった。
しかしふと、一つだけ気づいた事があった。僕はなぜあんなに彼女の写真をみて心身共に反応したんだろう。

そこで僕は本気で彼女のことが好きになっていたことに気づいたのだ。

それから時が経ち色んなやつが彼女にモーションをかけていた。が失敗に終わっていた。
僕が気にしているのは、いつも教室の後ろで足を組みのけぞっている東京野郎だけだ。
僕は彼女になんてモーションをかけていいか方法論も全く思い浮かんでいなかった。

夏のある日、僕は作品を撮るため伊勢佐木町の商店街にいた。
昔から歴史のある商店街で働いている人の姿を、そのまんまの場所で6×6のカメラでポートレイトしようとしていた。
八百屋さんの店先でねじりはちまきの威勢のいいおじさんの写真やコンビニのバイトの女の子、トラックに重そうにテレビを積み込んでいる電気屋のお兄さん、
托鉢で商店街のお店一軒一軒に祈りを捧げているお坊さん。でかい太った猫を肩に抱いて散歩しているおかまっぽいおっちゃん。
いい感じで撮れている。
今度の発表会はきっといい感じだ。

撮影も終盤にさしかかり、一件の目に止まった古いおもちゃ屋さんがあった。入り口にはガチャポンの機械が並び、その少し奥には箱が日焼けしたプラモデルの箱が積んであり、天井からは無数の玩具アイテムがぶら下げてあった。
僕はすかさず店内に入って声をかけた。

「ごめんください。」

奥では高校野球の試合の音が大きなボリュームでテレビに流れているのがわかる。
しばらくして店の奥から初老のおじいさんが出てきた。

「いらっしゃい。」

被写体的にナイスなおじいさんが出てきた。

「僕は写真の学校に通ってる学生なんですが、作品で商店街の人の働く姿を作品に撮っているのですが、この店先でおじいさんの写真を撮らして頂けないでしょうか?」

すると訪ねて来た理由がわかったおじいさんは急に僕のカメラに目をやった。

「それ、ブロニカね?マミヤね?」

国産の中盤カメラの名前を出した。

僕が「いや、これはハッセルブラッドっていいます。」

すると「これがハッセルかい、初めて見た」

もの凄く興味があるみたいだった。

話を聞くとこのおじいさんは昔、写真が趣味で、当時マミヤの二眼レフでいっぱい写真を撮っていたということだった。

僕はそのおじいさんの話に耳をもっと傾けた。
当時、伊勢佐木町で一位二位を争うくらいの腕前で街の風景や人物写真、花の写真などを撮っていた。
しかし数年前、奥さんを亡くし、世の中に何の興味も無くなったおじいさんは写真も撮るのをやめたという。
奥さんのいない世の中なんて写真に撮っても何の意味もないし、見せる相手もいないじゃなっかとおじいさんは話していた。
僕はそのおじいさんの話に一瞬で目に涙がたまり、もの凄く共感した。

それからというもの、いい写真が撮れたらおじいさんに見てもらいに通った。
おじいさんはここ数年商店街から出たことがないと言っていたので、新宿や池袋、浅草で撮ってきた写真を見せるとおじいさんは大いに喜んでくれた。
そしておじいさんも昔、「街」が作品のテーマだったこともあり、色んな場所の色んな撮影ポイントを僕に教えてくれた。

ある日のこと、いつものようにおじいさんのお店にプリントしたばっかりの写真を見せに行き、お茶をご馳走になっていると狭い店内の入り口に見たことのあるような女の子の姿があった。

「え?」

写真学校の彼女、マドンナだった。

彼女も「なんで?」と不思議そうな顔。

実は彼女、このおじいさんの孫だったのだ。

僕はビックリした。彼女もビックリした。

彼女は写真をやめたおじいさんに写真の学校に行っている事は黙っていたらしい。

僕らは外に出た。

彼女から

「私のおじいさんなの。おばあちゃんが数年前に亡くなってからというもの、あんだけ好きだった写真もやめていつもテレビばっかり見ていて

元気がまったく無く心配していたの。どんなに孫の私が話しかけてもいっこうに変わる気配がなかったの。」

「そうか」僕がうなずいた。

「だから私が写真を勉強して、いい物が撮れるようになったら、おじいさんに見てもらい元気になってもらおうって思ったの」

「そうか」なんて気持の優しい人なんだろう。その時はそう思った。

「写真に興味を持ったのもおじいさんのおかげだったし、しかし最近、おじいさん、少し元気が出てきて楽しそうにしているのでどうしたのかなーって思っていたら、

あなたがそうだったのね。  ありがとう!」

そう言いながら僕の手を握った。

「いやー」僕は照れくさそうに照れた。

それからというもの、彼女との距離は急速に縮んだ。


いつの間にか彼女とは普通に二人で出かけるような関係になった。あくまでも最初は友達として。

一緒にコンサートに出かけたり台風が来ているというのに無謀にも作品を撮りに千葉の房総半島の先っぽに行ったり。

よく飲みにも行った。

そして僕の心が伝わったのか、いつの間にか手をつなぐようになり、いつの間にかキスをするような関係になっていた。

僕の胸元のボールチェーンには彼女の指輪を通していた。最高だった。天にも昇るような気分だった。


学校ではしばらくは二人が付き合っている事を秘密にしていたが、すぐにみんなにばれてしまった。

その二日後の夕方、僕はあの東京野郎に呼び出された。二子多摩川園近くの原っぱに。

時間どおりにやつがつるんでいる仲間3人と計4人で土手を降りて来た。

ただならぬ雰囲気とやつの表情。

いきなり東京野郎が口を開いた

「お前、あの子と付き合っているんだってなー」

僕は黙っていた。

「何とか言えよ」っとやつが言った瞬間、パンチが飛んできた。

僕は中学の時卓球少年だったこともあり反射神経でさらりとかわした。

するとそれがまた感にさわったのか、僕の胸ぐらをつかみ押し倒してきた。

僕は抵抗していい物かまよっていた。

もみあっているうちに、やつの放ったフックが僕の顎あたりをクリーンヒットさせた。

僕は気が遠くなり後ろ向きに倒れた。次にやつは僕に馬乗りになり首のチェーンリングに通した指輪をチェーンごと引きちぎった。

それにはとうとう僕もキレた。どこから出てきた力かわからないが、上に乗っているやつを振り払い、卑怯だとは思ったがやつの髪の毛をつかみ顔面に膝蹴りをお返しした。

やつのすーっと伸びた鼻の骨が折れた。そして僕は前のめりになったやつの首筋に肘でおもいっきり殴った。

この技は昔、軍人用の対人戦闘の本に載っていた必殺技だ。やつはぐたっと前のめりに倒れた。

もうファイティングポーズをやつは返すことはなかった。

無言のままに仲間の3人がやつを慌てて支え去って行った。

僕はそのままその場所で大の字にひっくり帰った。

僕は下の前歯がぐらぐらになっていた。

こういうシチュエーションで対抗するには僕は相手を殴るほど憎んではないので少々時間がかかる。

しかし学校でも日々眼を飛ばし合っていたから今日はいい果たし合いだった。


それからというもの、学校では誰もが認めるカップルとなった。

しかしここで愛でたし愛でたしではない。
ある日、事件、いや事故は起こった。

それは暗室実習のフィルム現像の時だった。
印画紙のプリントの時はオレンジ色のセーフライトを付けているため周りの人間はよく見えているが
フィルムを現像するときは光に敏感なため暗室を真っ暗にする。

前も言ったように彼女とは同じコースなので暗室の授業も一緒だ。
そこで僕はいつも真っ暗で何も見えないことをいいことに、彼女を抱き寄せ実習中にキスをしていた。
周りにクラスメートがいるので大変スリルがあった。

ある金曜日の4限目、いつもの暗室実習だ。僕はいつも通り、彼女とのキスを狙っていた。
合図と共に電気が消えた。しばらくして近くにいたはずの彼女を引き寄せた。そしてキスをした。



何かが違う。

大変だ!僕は違う女の子にキスをしてしまったのだ。

それも彼女の親友の子にだ。

やばい。血の気が引いた。

間違ったと冗談は通じるのか?

実習が終わり暗室から出るなりその子に謝った。

「間違った!ごめん!」

そこで僕はまたミスった。「ごめん」と言えばよかったのに思わず「間違った」を付けてしまったのだ。

その子は僕の顔を見つめて、じゅわっとゆっくりキレて泣いた。

もちろんその場を立ち去るわけにも行かず、その光景におどろおどろしていたら、

そこへ彼女が心配そうな顔をしてやってきた。

「どうしたの?」

僕は情けないがその時は何も言葉に出せなかった。

その頃の僕は調子込んでいると必ずしっぺ返しが来た。

もうその後のことはご想像にお任せする。


それから1年と数ヶ月が経った。
いつの間にかあの東京野郎とも仲良くなっていた。
みんな来春の就職に向けて最後の仕上げをやっている。
中には資生堂の広報部や電通の写真部に内定するやつらが出てきた。

しかしその頃、僕たちの間に変化が訪れていた。

最近の彼女の態度がどことなくぎこちないのだ。
キスをしていてもそれはすぐにわかる。

予感は当たっていた。

後編につづく。
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by charvy | 2010-02-18 00:17 | 小説

小旅行、島原。

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今日は朝から島原へ取材に出かけた。
フェリーが1本早かったので、待ち合わせまで1時間以上あった。
僕らは雲仙に登り、古浜温泉へと下り251号線で海沿いをぐるりと1週した。
車の中の音楽が同乗した仲間と共に仕事前のいいドライブとなった。

そして、午後には小国に向け車を走らせていた。
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by charvy | 2010-02-16 12:50 | 旅、OUT DOOR Life

ストーリー「いつもの朝、南の島」

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2010年2月2日、僕はいつもの朝を迎えた。
広告代理店の会議に向かうため車を走らせる。
今日は朝から霧が残ったまま日差しをディフューズしていた。

車の窓を開けてみる。サンルーフも開けてみた。
すると、ほかにも車が走っているのだが、霧が音を吸い込み低い地面のロードノイズと歩行者信号のシグナル音だけが響いている。

今回、会議で話す内容はすべて左脳の中にいつでも発射出来るように準備してあるので、会議室の椅子に座るまで頭の中は自由だ。
そして僕の右脳では今朝の霧と空の色、空気の感触を想像することが優先されている。
僕の意識以外のところで、何か想像もつかないものが頭の中で生成されているようだ。


そして思考のマウスカーソルの風車が止まった時、いつも僕はあの人のことを思い出す。



あの人とは、遠い遠い夏の日。南の島へ行くフェリーの船着き場、そして防波堤でのこと。

梅雨が明けたばかりの7月の第3週、その日僕はフェリーに乗り屋久島へ一人旅の途中だった。
行きのフェリーの中の売店で、かしわおにぎりを買い、甲板の先端あたりのベンチでほおばっていた。
しばらくすると誰か、すぐ横のタラップを上がってくる足音がする。
ステップのリズムで男ではないことはわかっている。
足音がだんだん登り詰めてくる。
僕の目の前の手すりをつかもうとする白く細い手が見えた。
そして白い帽子、白い腕、白い服。

僕は息を呑んだ。

白のワンピースをまとい、今まで夢の中でしか見たことがないようなバランスを持った女性がそこに現れたのだ。
まったく知らない初対面な人のはずなのに、なぜか懐かしい。

フェリーの揺れに少しだけ用心しながら僕の目の前をその彼女は通りすぎ、ひさしを支えてある柱にもたれかかった。
竹で編んであるような少し小さめの旅行カバンを脇のベンチに置き、風で帽子が飛ばないように左手で押さえている。
白のワンピースの袖から伸びる白く細い腕の内側の皮膚はもっと白く、夏の光に透けて見えそうだ。

彼女はカバンから500㎜㍑のペットボトルをとり出しキャップを開けてカバンの端に置きお茶を飲んだ。
しばらくするとこのフェリーと同じくらいの大きさの貨物船とすれ違った。
そして波にフェリーが揺れた途端、カバンの端に置いたペットボトルのキャップが僕の前を通り過ぎ、タラップの下の方へコロコロと転がっていった。
僕は無意識にそのキャップを追いかけタラップを駆け下りた。
海に落ちる寸前のところでキャップは止まっていた。
拾い上げてタラップを上がると想像どおり、彼女が申し訳なさそうな表情でこっちを見ていた。
僕が親指と人差し指でキャップを持ち反対の手で無意識で不思議なジェスチャーをしたら彼女が笑った。

その彼女は、もうすぐ屋久島が世界遺産に登録されて環境が整備される前に、屋久島を見に来たかった事と、一つのチャレンジとして山岳ガイドを雇って、縄文杉まで登山をするのだという。
どう見ても片道6時間ほどかかる登山が出来るようには見えないが、登山用品や登山靴はもうホテルのほうへ送ったということだった。
そしてあっという間の船旅が終わって下船準備のアナウンスが。

僕はその彼女がいつ、どの登山口から登るのかを聞く暇もなく舟を下りた。
フェリーから車を降ろし、徒歩客の下船口に回ってみたが彼女の姿はもう何処にもなかった。

しかし今回の一人旅、そんな女性に興味をもつなど言語道断。
僕は一言で言えば、日頃の頭の中のもやもやを浄化するためにこの島に来たのだ。

僕は港の近くのスーパーで買い物を済ませた後、いつものコースで島を時計反対回りにキャンプ場へ向けて車を走らせた。
明日の早朝、荒川の登山口から縄文杉に逢いに行くのだ。

次の日の朝が来た。予定どおり登山決行。
最低限のカメラ機材で軽量化をし、携帯非常用テント、食料などを背中にしょって登った。
山に入るとさっきまで気になっていた女性のことなどどこかへ飛んでいってしまっていた。

片道6時間の登山の末、無事に縄文杉に再会を果たした。
僕は次の日、疲れた筋肉をほぐすため、島を一周しながら点々とある温泉を巡った。
結局、滞在3日間天気に恵まれそうだ。

この島はいつだって光が降り注いでいる。

僕は島で一番のお気に入りの場所、いなか浜の手前の丘の上で車を止めた。
とても気分のいい場所だ。遠く水平線の向こうに黒潮が暖流として島をかすめているのがわかる。
明日は帰る日。3泊などあっという間だ。

最終日の朝、僕は何もすることがないので早めにキャンプ場を出て港に向かった。
正午に帰りのフェリーは出航する。
港の目の前の小さな食堂で、朝ご飯か昼ご飯かわからない食事を済ませて、フェリーの乗船待ちの車の列にジムニーを並べて止めた。
チケットをワイパーに挟みあとは時間を待つだけだ。

しかしまだ乗船時間まで1時間はある。
退屈をした僕は車を離れ港の周りを散歩して回った。
港の反対側に小高い小さな岬があった。
そこへ筋肉痛の足をひこずりながら登っていると、岬の向こう側にもう一つ小さな防波堤が見えた。
その方向へ視線を移すと、そこになんと行きのフェリーで出会った彼女が立っていた。

また僕は息を呑んだ。

僕は彼女のほうへ歩いて行き、あと10歩ほどのとこで彼女もこっちに気付いた。

「あらー、偶然。またお会いしましたね」

と彼女の方から言葉が出た。

「うぁービックリ。また会えたね。僕は今日帰るんだ」

と返した。

「そう。 私はこの島にもうちょっとだけ居たくなって先ほど帰りのフェリーをキャンセルしたとこなの」

「毎年、7月のこんないい季節、第3週の海の日を目標にまたこの島に来たいなぁ」

「なぜ第3週なの?」

と僕が聞いた。

すると

「私、出版社に勤めていて月刊誌なので発売直前の週しか、休がとれないの」

「それと7月の第3週が屋久島の一年で一番晴れる確率が多い日なのよ」

と教えてくれた。

「そう。結局、山には登ったの?」

と聞くと

「ガイドさんと共に山小屋で1泊をして白谷雲水峡から登りほかの下山口まで縦走の。楽しかったわー」

なんという体力。
僕は日帰り登山でも、まだこんなに筋肉痛なのに。

しばらくして彼女が、

「このカメラで私の写真を撮ってくれませんか?」

「ん?」

彼女の片手には、なにやらカメラらしき物を握っている。
折りたたみ式のポラロイドカメラだった。
僕は懐かしいポラロイドカメラを受け取り、彼女の方にレンズを向けた。

すると突然海の方から突風が吹いた。

「キャーっ」

彼女のワンピースのスカートがめくり上がろうとしている。
僕の目の前で慌てて手で帽子とスカートを押さえる彼女がいた。

その瞬間、絶妙なタイミングで僕はシャッターを押した。
オペラグラスみたいなカメラが、まるでおもちゃみたいな音をたててシャッターがおりたかと思うと、前の方から白いまんまの写真が排出された。

そして真夏の日差しの中、30秒くらいで像が浮かび上がってきた。
写真の中の彼女は風のいたずらで、めちゃめちゃセクシーに写っている。
細くバランスがとれた腕、少し内股に構えスカートを挟んでいる細く長い足、彼女の髪、彼女の表情。

僕はこの写真がとても欲しくなり、

「この写真、もらってもいい?」

と訊ねた。

彼女がにこっと笑った。

そして余白に名前と住所、連絡先などを書いてもらった。

何ということだラッキー!

しばらくして、そろそろ乗船時間なので彼女と一緒に港に戻った。
港に止めてあった僕の車に、彼女がすごく反応して興味を持っていた。
しばらく車の前で立ち話。
そして係の人が交通整理の棒で僕に進むように指示を出した。
僕は

「じゃーまた」

と声をかけ彼女に軽く手を振って車をスタートさせた。

彼女はにこっと頬笑み、僕の方を目で追ってくれた。

車をフェリーの中に止め、急いでタラップを駆け上がった。

船着き場に地元の人たちにまざりながら、こっちを見ている彼女が見えた。

そして割と長い時間が流れた。

大きい声で叫ぶにも照れくさくて。

しかもなんて叫べばいいかわからない僕は、そっちを見ているしかなかった。

大きな銅鑼の音でフェリーがいよいよ出航した。

彼女が僕に向かって手をふっている。

僕は彼女を凝視しながら手を振り返した。

僕は密かに彼女に対して再会を約束した。

フェリーは割と速いスピードで防波堤の外に出た。

もう少しゆっくりでいいのに。

防波堤にまだ人が居るのはわかるのだが、誰が誰だかわからないくらい小さくなった。

僕の胸に熱い物が少し走った。

鹿児島港まで4時間の船旅だ。

僕は船の揺れに慣れた頃、甲板でさっき撮ったポラロイド写真を胸のポケットから出してみた。

彼女の住所は横浜だった。下の名前は聡美。

僕は甲板に大の字に寝転び携帯電話にメモろうとした。

するとどこからか真夏の熱い風がフェリーのエンジンのにおいと共に吹いてきて、いきなり左手に持っていた大切なポラロイド写真をタラップの方へふき飛ばした。

僕は「ばッ」と声を上げ起き上がると、ポラロイド写真をタラップの下へと追いかけた。

そこで海すれすれ、落ちる寸前で止まっていなければならないポラロイド写真が、さくの間から海に落ちるのが見えた。

僕はあまりの光景にしゃがみこんだ。

一度は目にした携帯番号も090-32??-????。

思い出せない。

彼女には僕の方から連絡するからと、僕の連絡先は教えていない。

「‥‥‥」

真夏のフェリーの甲板で20ノットの風が吹いていた。

あれから数年、屋久島に行くなら7月のそれも第3週と決めている。

もし再び、あの人と逢えるのなら。




9時ちょうどに会議が始まった。
今回の会議の論点はやる気の見えないクライアントにどうプレゼンするのかというもの。

僕は発射した。思いを込めて。

「そのやる気の見えないクライアント企業を、僕たちがどれだけ愛おしい人のように本気で愛せるかだと思う」と。

何事にも本気で思うことが常に出来るとしたら、またあの人ときっと逢える、、気がする。
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by charvy | 2010-02-09 12:00 | 小説